フランス語圏
フランス語圏(ふらんすごけん、francophonie)は、公用語や準公用語にフランス語が設定され、フランス語がその地域で重要な言語のひとつになっている53の国、地域の総称である。英語では「フランコフォニー」と言い表すことができる。フランスの旧植民地がたくさんあったアフリカ西北部の国に多い。
フランス国内では、5100万人 がフランス語を第一言語としている。全世界でフランス語を第一言語としている人は7700万人で(1999 WA)、第二言語としている人を合わせると、1億2800万人いる(1999 WA)。(ちなみに日本語人口は第二言語話者を合わせて全世界で1億2600万人(1999 WA)。)
フランス語が国語・共通語・公用語の地位にある国、地域
フランス共和国 ヨーロッパ スイス連邦(ドイツ語、イタリア語も公用語に認定されている。) ベルギー王国(フラマン語とドイツ語も公用語に認定されている。) モナコ公国 ルクセンブルク大公国(国語はルクセンブルク語。)(注1)
アフリカ ガボン共和国(注2) カメルーン共和国(英語も公用語に認定されている。) ギニア共和国 コート・ジボワール共和国 コモロ・イスラム連邦共和国(アラビア語も公用語に認定されている。)(注3) コンゴ共和国(注4) コンゴ民主共和国 ジブチ共和国(アラビア語も公用語に認定されている。) セイシェル共和国(英語も公用語に認定されている。)(注5) セネガル共和国 チャド共和国(国語はアラビア語。) 中央アフリカ共和国 トーゴ共和国 ニジェール共和国 ブルキナ・ファソ ブルンジ共和国(ルンディ語(イキルンジ語)も公用語に認定されている。) ベナン共和国 マダガスカル共和国(マダガスカル語も公用語に認定されている。) マリ共和国(国語はバンバラ語、フルフンデ語、ソンガイ語、タマシェク語。)(注6) ルワンダ共和国(キニヤルワンダ語も公用語に認定されている。) レユニオン島(マダガスカルの東にあるフランス領の島) マヨット島(マダガスカルとモザンビークの間にあるフランス領の島)
北アメリカ カナダ(英語も公用語に認定されている。) ミクロン島(カナダの東にあるフランス領の島) サン・ピエール島(カナダの東にあるフランス領の島)
中央アメリカ ハイチ共和国(クレオール語も公用語に認定されている。) グアドループ島(西インド諸島のフランス領の島) マルチニーク島(西インド諸島のフランス領の島)
南アメリカ ギアナ(フランス領)
オセアニア バヌアツ共和国(国語は英語系クレオールのビスラマ語で、英語も公用語に認定されている。) ニュー・カレドニア島(フランス領) フランス領ポリネシア(タヒチ島が有名) ワリー・エ・フトゥナ諸島(フランス領)
注1:ルクセンブルクでは、主に知識人がフランス語を使う傾向にあるようだ。学校では第三言語として教えられている。 注2:ガボンには41もの言語が共存しているため、フランス語が唯一の教育言語であると報告されている。 注3:コモロの学校では、コーランの授業をのぞいたすべての科目でフランス語が用いられている。 注4:コンゴ共和国には部族語のリンガラ語やムヌクツバ語(コンゴ系クレオール)など61もの言語が共存しているため、フランス語が唯一の教育言語であると報告されている。 注5:セイシェルでは、フランス入植者の子孫がフランス語を継承している。 注6:マリには40もの言語が共存しているため、教育現場ではフランス語による指導が行われている。
情報源;Ethnologue report for FRENCH
フランスのフランス語事情
現在、フランスには29もの言語が共存している。(ちなみに日本には15の言語が共存している。)しかし、フランス語は依然として支配的な地位に居座っており、「フランスの言語=フランス語」の方程式に支障をきたす恐れはまったくないといえる。フランス国内におけるフランス語の主な方言は以下のとおりである。 アンジュー方言 ノルマンディー方言 ピカルディー方言 フランシュ・コンテ方言 ブルゴーニュ方言 ポアトー方言 ロレーヌ方言 ワロン方言
など
情報源:Ethnologue report for France
ベルギーのフランス語事情
ベルギーでは、全人口の33% (1990 WA)に当たる400万人(M. Harris in B. Comrie 1988)がフランス語話者である。 ベルギーのフランス語は、ワロン方言やピカルディー方言として知られている。なお、ベルギーの言語構成は、オランダ語が57.9%、フランス語が32%などとなっている。さらに、全人口の9.4%が居住しており、首都があるブリュッセル地区は、オランダ語・フランス語併用地区に指定されている(De Grote Bosatlas 1988ほか)。ベルギーのオランダ語をフラマン語、フランス語をワロン語と呼ぶことがある。
スイスのフランス語事情
スイスの全人口の19.2%に当たる127万2千人がフランス語話者である(1990 census)。フランシュ・コンテ方言がスイスのフランス語に当たる。スイスの全人口の33%がフランス語を日常語としている(1990 census)。スイス西部のフランス語地区(ジュネーヴ、ヌーシャテル、ローザンヌなど)では、フランス語による教育が行われている。なお、1995年現在のスイスの言語構成は、ドイツ語が63.6%、フランス語が19.2%、イタリア語が7.6%などとなっている(De Grote Bosatlas 1988ほか)。
カナダのフランス語事情
カナダには全人口のおよそ24%にあたる670万人がフランス語を母語としている(1998 Statistics Canada)。そのうちの8割がケベックの住民である(1997 DiverCite Langues)。カナダのフランス語は大きく分けて3つの方言に分かれる。 ケベック方言 フランコ・オンタリオ方言(約50万人) アケイディア方言(約30万人;ノヴァ・スコシア半島)
しかし、方言どうしでは互いの意思疎通が困難であると報告されているため、「標準フランス語」を理解し話せるかが要となってくる。ちなみに1991年現在のカナダの住民構成は、イギリス系が40%、フランス系が27%などとなっている(The Human Mosaic 1992ほか)。
そのほかの国のフランス語事情
アメリカのルイジアナ州南部のミシシッピ川西部には、カナダのフランス語の一派アカディア方言から派生したカジュン方言の話者が100万人いる(M. Harris in B. Comrie 1988.212)。「ナポレオン期のフランス語」とも言われるカジュン方言は、かなり古いフランス語や英語がもととなってできた方言で、「標準フランス語」とはかけ離れたものと報告されている。この地方に住む50代より若い世代はほとんどが英語を第一言語としているようだ。カジュン方言でのラジオ番組もあり、この地方は湿地のため、猟師や革職人が多い。 1962年にフランスから独立したアルジェリアでは、公用語はアラビア語だが、全人口の2割の人がフランス語を読んだり書いたりできると申告している。彼らに言わせれば、しゃべるのはもっとうまいそうだ。 イタリアには、アオスタを中心にフランス語話者は10万人いる(M. Harris in B. Comrie 1987)。 フランスの保護国であったチュニジアは、1956年にフランスから独立した。国民のほとんどはアラブ人で、公用語にはアラビア語が認定されているがフランス語も広く普及している。 モーリシャスは、1968年にイギリスから独立し、現在はイギリス連邦の一員で、英語が公用語に認定されている。フランス領の時代の名残がフランス語系クレオールの形で残っている。 フランス委任統治領であったレバノンは、1944年にフランスから独立した。公用語はアラビア語だが、全人口のおよそ2割の人が日常的にフランス語を話している。さらに、全人口の65%の人がフランス語を読み、そしてフランス語で会話をすることができるそうだ。ほとんどの私立大学はフランス語を教えており、ほとんどの学校ではフランス語による授業が行われている。フランス語の新聞や雑誌も一般的である。 住民のほとんどがスペイン系カタロニア人のアンドラ(公用語はカタルーニャ語)でも、フランス語は国語の地位にあるようだ。情報源;Ethnologue report for FRENCH
過去のヨーロッパにおけるフランス語の地位
16世紀のヨーロッパで起こった宗教改革によってラテン語が衰退していった後、フランス語はヨーロッパにおける国際補助語(主に外交語)の地位を獲得した。その原因として、渡部昇一(2001)は以下のような要因を挙げている。 フランス語はラテン語の要素(語彙など)を多く取り入れた言語である。 ルイ王朝やナポレオンがヨーロッパで猛威を振るった。
また、日本人なら誰もがれっきとした英語一筋縄の国だと思っているイギリスでも、かつてはノルマン・コンクエスト(1066年)によって、その後300年ほど上流階級はノルマンディー地方のフランス語を用いる、使用人の身分のものたちは秩序なき英語を話している(注7)「社会的二重言語社会」を経験した(注8)。
かつて旧ロシアでも、貴族たるものはみなフランス語でおしゃべりをするたしなみを兼ね備えていたものだ。フランス語はヨーロッパの上流階級の社会の一員を示すシンボルであった。
注7:この時期に英語で書かれた文献はないに等しい。詳しくは英語史を参照せよ。 注8:現在のイギリスには12の言語が共存している。ちなみに、今でもイギリスにはフランス語が話されている地域がある。イギリス海峡の海上に浮かぶチャネル諸島(イギリス領)で、フランス語が公用語に認定されているが、フランス語話者の高齢化が進んでいる。(Ethonologue report for United Kingdom)
参考文献:渡部昇一(著)講談・英語の歴史(PHP新書) ISBN 4569617042
現在のフランス語の地位
現在フランス語は、英語についで人気のある第二外国語として欧米を中心に広く学ばれており、インターポール、ヨーロッパ連合、世界保健機関、世界貿易機関、北大西洋条約機構、北大西洋自由貿易地域、国際連合、国際オリンピック委員会などの公用語のひとつにも採用されている。フランス国内では言語、方言の多様化が目立ち、フランス語は他言語との共存を強いられているが、教育や情報メディアの普及でフランス国内では、フランス語による標準化が進んでいるようだ。
かつてのフランスの植民地では、土着語(その土地の言語)とフランス語の要素が混ざり合って簡略化された言語(注9)が生まれる事態が発生した。
注9:主に西アフリカ諸国ではフランス語系ピジン、カリブ海諸国やインド洋諸国ではフランス語系クレオールの実態が報告されている。