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アイヌ語

アイヌ語とは、アイヌ(アイヌ人)のイタㇰ(見える環境ならばと表示されるはず)(言語)のことである。「アイヌ」とはアイヌ語で「人間」という意味である。主に北海道樺太千島列島のアイヌを中心に話されている(あるいはいた)言語。元来文字を持たず、声での伝達をされてきた。現在は文字化の試みも行われ、表記方法はカタカナまたはローマ字に拠る。地方によって多くの方言がある。

アイヌ語と日本語は地理的に近い位置で話されてきたにもかかわらず、語彙の借用を除いてお互いの間にはそれほど共通点が見いだせない。けれども、世界中の他の言語と比較したとき、アイヌ語に最も近い言語は日本語朝鮮語であると言わざるを得ない。専門家の間では、アイヌ語を日本語の基盤となったいくつかの言語の内の一つから発展した言語であるとする見方が一般的である。従って、アイヌ語は特定の語族に属することのない、言語分類上では孤立した言語である。

アイヌ語の現状

現在、アイヌ語を継承しているアイヌ人は大変少なく、近いうちに消滅してしまうことが懸念されている言語の一つである。1996年の推定では、約一万五千人のアイヌ人の中で、アイヌ語の流暢に話せる人 (Active speakers) は 15 人しかいなかった 。さらに厳しい推定もある 。そこでは母語話者 (Native speakers) は千島列島では既に消滅し、樺太でもおそらく消滅していて、残る北海道の話者も平均年齢が既に80を越え、数も10人以下となっている。アイヌ語の消滅危惧のレベルは「おそらく消滅した言語」と「消滅の危機に厳しくさらされる言語」の間の「消滅に近い言語」となっている。
特にアイヌ語を話せる人物であっても、30年前の同じ地区で話されていたアイヌ語の録音を聞いても知らない語彙が相当数あるようで、このことはアイヌ語の研究の大きな制約になっている。

しかし 1990年代から、アイヌ人ではない日本人の中にもアイヌ語を勉強しようとする人が増えてきている。いくつかの都市で学習会がもたれ、またアイヌ語の辞典も各種出版されている。

発音と文法

母音は/a/, /i/, /u/, /e/, /o/ の五つであり、子音は/p/, /t/, /k/, /c/, /n/, /s/, /r/, /m/, /n/, /w/, /y/, /h/の十一種が数えられる。日本語と異なり、閉音節(子音で終わる音節)をもつ。

/u/は、日本語の「ウ」と発音が異なり、アイヌ語以外を母語とする者には「オ」のようにも聞こえることもある。アイヌが古くはヨーロッパ人の宣教師らによって「アイノ」と記録されていたのはそのためである。子音/t/を伴った音節/tu/は特に際立って日本語の「トゥ」と違いがある発音で、アイヌ語をカタカナで表記するとき/tu/を表現するために、「ト」に半濁点がついたト°という特殊な文字を利用することもある。

アイヌ語で特別に用いられる文字:ㇰㇱㇲㇳㇴㇵㇶㇷㇸㇹㇺㇻㇼㇽㇾㇿ(表示できない場合が多いです)

基本的な文型は SOV (主語・目的語・動詞)の順で、この点では日本語と同じであるが、形態論的には膠着語である日本語と異なり、抱合語というイヌイットやアメリカ先住民族らの言語(エスキモー諸語、インディアン諸語など)の間でしか見られない、アジアでは珍しい分類に属するとされる。これは動詞に主語および目的語-授与動詞では間接目的語も-の人称および数を示す接辞が付けられ、さらにその他の意味を示す接辞が付加されて、動詞だけでも文に相当する表現が可能なためである。なお名詞でも、特に個人と切り離せない関係にあるもの(体の部分など)には所有者を示す接辞が必須的に付加される。

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アイヌ語の文章規範

アイヌ語には文章語がなかったが、近年はカタカナやローマ字による文章化の試みがなされているが、国家をもったことのない民族の言語であるアイヌ語には文章の規範となる標準語がなく、困難が伴っている。また、日本語に慣れ親しんでいるアイヌ人やアイヌ語を学ぶ日本人にはローマ字よりはカタカナによるアイヌ語表記が好まれるが、アイヌ語の発音では閉音節があるためにカタカナそのままでは正確に表記ができないという欠点がある。

文学

上述の通り、アイヌ語には独自の文字が存在しないため、アイヌの文学は全て口承のものである。しかし民話・神話には非常に富んでいる。アイヌ語の叙事詩はユーカラと呼ばれる。ユーカラの内容は、動物の神があらわれて体験を語るものや、人間の世界の恋愛や戦いを歌うものなど多様である。叙事詩のほかに、いわゆる昔話のような散文による伝承文学もある。

アイヌ語の語彙

代表例

• アイヌ(aynu) - 人 • イヨマンテ - 熊送り(の儀式) - アイヌの最大の祭 • エサマン - カワウソ • カムイ(kamuy) - 神 • カパッチカムイ - (鷲の神)オオワシ • キムンカムイ - (山ノ神)ヒグマ • クトロンカムイ - (岩場の神)エゾナキウサギ • コタン(kotan) - 村 • コタンコロカムイ - (村の神)シマフクロウ • コロポックル(korpokkur) - (フキの葉の下の)小人 • サルルンカムイ - (湿原の神)タンチョウ • シュマリ - キタキツネ • セタ - 犬 • トノト - • ユーカラ(yukar) - 叙事詩 • レプンカムイ(repunkamuy) - (沖の神)シャチ • ピリカ - 美しい、可愛い

日本の地名となったアイヌ語

北海道の地名で、アイヌ語に起源を持つ例。

札幌<サッポロペツ<sat poro pet(乾いた広大な河) • 苫小牧<トマコマナイ<to mak oma nay(沼の奥にある川) • 稚内<ワッカナイ<wakka nay(水川) • 知床<シレトク<sir etok(大地の奥)

東北地方北陸関東四国の地名にもアイヌ語の痕跡を見出す説もある。 • 東北地方の一部の地名がアイヌ語と同系であることはほとんどの研究者の共通認識となっているが、他地方に関してはトンデモ説に近いという意見もある。
それに対してアイヌ語に限らず、古地名の無視・あるいは地名の記号化は災害や地理的理解のさまたげの元になるという批判もある。

日本語に溶け込んだアイヌ語

• 動物 • トナカイ (tunakkay) • ラッコ (rakko) • 野鳥 • エトピリカ (etupirka) • 魚介類 • シシャモ (susam) • ホッキ貝 • その他 • ハスカップ(実の付く低木・お菓子の材料になっている) • ノンノ (雑誌名・「花」の意)

アイヌ語の研究

アイヌ語の話者の寡少に比して、アイヌ語は活発に研究されてきた。研究者として有名なのは、日本では知里真志保と金田一京助がまず挙げられる。

知里は兄妹で金田一の研究に協力したが、金田一の姿勢は「滅ぶべき民族」というようなものであった為、アイヌからの評価は低い。初期の研究はアイヌを研究材料として扱うもので、同化政策に協力していたので現在は遡って批判されている。

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参考文献

• 知里真志保著『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター ISBN 4-8328-8802-1 ── 原本は1956年に発行された。地名に出てくるアイヌ語の解説書。小さいながらも、たいへん使いやすい本となっている。 • 亀井孝・河野六郎・千野栄一編著『日本列島の言語』三省堂 ISBN 4-385-15207-1 ── アイヌ語全般に関する詳しい解説を含む専門書。同じ出版社から出ている『言語学大辞典』の中から「アイヌ語」、「日本語」、「琉球列島の言語」の項目を再編集したもの。

知里幸惠編訳『アイヌ神謡集』岩波文庫 赤80-1 ── 原本は1923年に発行され、アイヌ文学として一般に知られるようになった最初のもの。著者は出版をまたず、19歳3ヶ月で夭折した。


外部リンク

白老のアイヌ語単語集北海道のアイヌ語地名アイヌ語ラジオ講座 (札幌テレビ放送 STV)



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