古事記
古事記(こじき、ふることふみ)は、712年に編纂された、日本最古の歴史書。上中下の全三巻に分かれる。
概論
日本書紀のような正史ではない。序によれば、稗田阿礼が誦んだ帝紀・旧辞を、太安万侶が書き記し、編纂した。古事記本文の記述以外には編纂の記録が直接は見当たらないため、偽書説もあるが、一般には受け入れられていない。なお、古事記は正式名ではないとされ、古い書物を示す一般名だと言われている。内容は、神代における天地(アメツチと読まれる)の始まりから推古天皇の時代に至るまでの様々な出来事(神話や伝説等を含む)を収録している。また数多くの歌謡を含んでいる。歌謡以外の部分が独特な漢文で書かれているのに対して、歌謡は日本語の音を漢字に託して表記する方法を取っている。このことから古事記の歌謡は上代特殊仮名遣の研究に欠かせない。
上代特殊仮名遣とは、7 - 8世紀の大和地方の言語のことである。「上代日本語」と呼んでもいい。ここに「万葉仮名」も含まれる。上代日本語は、キヒミ・ケヘメ・コソトノモヨロの13音節とこれらの濁音節がそれぞれ甲乙の二類に書き分けられている。ただし、「モ」のかき分けは古事記のみである。これが上代特殊仮名遣である。因みに、邪馬台国畿内説の論拠に、この上代特殊仮名遣を取り上げる研究者がいる。
研究
古事記の研究は特に近世以降盛んに行われてきた。江戸時代の本居宣長による『古事記伝』は古事記研究の古典であり、後世に大きな影響を与えている。あらすじ
上巻(かみつまき)
古事記編纂にあたっての経過などを記した「序」に続いて、天地開闢から日本列島の形成と国土の整備が語られ、天孫が降臨し山幸彦までの神代の話を記す。いわゆる「日本神話」である。天地開闢とともに様々な神が生まれたとあり、その最後にイザナギ、イザナミが生まれた。ニ神は高天原(天)から葦原中津国(地上世界)に降り、日本列島(北海道や南西諸島は除く)を産み、ついで山の神、海の神などアニミズム的な神々を産んだ。こうした国産みの途中、イザナミは火の神を産んだため、火傷を負い死んでしまった。イザナギはイザナミを恋しがり、黄泉の国(死者の世界)を訪れ連れ戻そうとするが、ニ神は喧嘩してしまったため、連れ戻すことに失敗し、国産みは未完成のまま終わってしまう。イザナギは、黄泉の国の穢れを落とすため、禊を行い、単神で天照大神、月読命、須佐之男命らを産む。これら三神は、三貴子と呼ばれ、神々の中で重要な位置をしめるようだが、月読命に関しては、誕生したこと以外の記述はなく、どういった神であるかははっきりしない。スサノオは乱暴者なため、姉の天照大神に反逆を疑われる。そこで、天照大神とスサノオは心の潔白を調べる誓約を行う。その結果、スサノオは潔白を証明するが、調子に乗って狼藉を働いてしまう。我慢の限度を越えた天照大神は、天岩屋戸に閉じこもるが、集まった諸神の知恵で引き出すことに成功する。一方スサノオは高天原を追放され、葦原中津国に下る。ここまで、乱暴なだけだったスサノオの様相は変化し英雄的なものとなり、有名なヤマタノオロチ退治を行なう。次に、スサノオの子孫である大国主神が登場する。大国主の稲羽の素兎(因幡の白兎)や求婚と受難の話が続き、スクナヒコナと供に国作りを進めたことが記される。国土が整うと国譲りの神話に移る。高天原の神々は、国土の統治権を天孫に委譲することを要求し、大国主と子供の事代主神はそれを受諾する。しかし、子の建御名方神は承諾せず抵抗するが、平定される。統治権を得ると高天原の神々は天孫ニニギを日向の高千穂に降臨させる。次にニニギの子供の山幸彦と海幸彦の説話となり、浦島太郎の説話のルーツとも言われる、海神の宮殿の訪問や異族の服属の由来などが語られる。山幸彦は海神の娘と結婚し、彼の孫の神武天皇が誕生して、上巻は終わる。
上巻に出てくる主な神々
天之御中主神 高御産巣日神 神産巣日神 伊邪那岐神 伊邪那美神 天照大神 須佐之男命 天之忍穂耳命 大国主神 邇邇芸命 火遠理命 鵜葺草葺不合命
中巻(なかつまき)
初代神武天皇から15代応神天皇までを記す。神武東征に始まり、ヤマトタケルや神功皇后の話など神話的な説話が多く、神の世と人の世の間の時代であることを示している。2代から9代までは欠史八代と呼ばれ、系譜などの記述にとどまり、説話などは記載されていない。なお、「神武天皇」といった各天皇の漢風諡号は、古事記編纂の時点では定められていないため、国風諡号のみで記されている。 なお史実性が確認されているのは応神天皇以降である。神功皇后と卑弥呼を同一視ないし関連づける説もあるが、一般に受け入れられるには到っていない。
中巻に出てくる主な人物
神武天皇 綏靖天皇 安寧天皇 懿徳天皇 孝昭天皇 孝安天皇 孝霊天皇 孝元天皇 開化天皇 崇神天皇 垂仁天皇 景行天皇 倭建命 成務天皇 仲哀天皇 神功皇后 応神天皇
下巻(しもつまき)
16代仁徳天皇から33代推古天皇までを記す。神との遭遇の話などはあるものの、現実的な説話となってきており人の世の時代に至ったことを示している。 仁賢天皇から推古天皇までは欠史十代ともいわれ、欠史八代と同じく系譜などの記述にとどまり具体的な著述が少ない。これは、書かれた当時においては、時代が近く自明のことなので書かれなかったのだとか、25代武烈天皇で皇統が一旦途切れたことと関連があるのだとも言われている。
下巻に出てくる主な人物
仁徳天皇 履中天皇 反正天皇 允恭天皇 安康天皇 雄略天皇 清寧天皇 顕宗天皇 仁賢天皇 武烈天皇 継体天皇 安閑天皇 宣化天皇 欽明天皇 敏達天皇 用明天皇 崇峻天皇 推古天皇現存本
刊行本
小学館新編日本古典文学全集1「古事記」全1巻 1997年 岩波文庫「古事記」全1巻 倉野憲司 1963年 原文、注釈。巻末に歌謡の索引がついている。 講談社学術文庫「古事記 全訳注」上中下巻 次田真幸 1877年 原文、現代語訳、注釈、解説。
外部リンク
国立国会図書館ホームページ http://www.ndl.go.jp/ 電子図書館の蔵書>近代デジタルライブラリーで古事記(原文)が閲覧できます。 古事記物語 - 青空文庫にある鈴木三重吉による現代語訳。全文が閲覧できる。再配布可能なフリーライセンス。