奇術
奇術 (きじゅつ)あるいはマジックとは、人間の錯覚や思い込みを利用し、実際には科学的な原理を応用してあたかも「実現不可能なこと」が起きているかのように見せかける技術。通常、観客に見せることを前提としてそのための発展を遂げてきたものをいう。手品(てじな)と同義であり、古くは手妻(てづま)とも呼ばれた。記述の歴史は古く、演目の一つ「カップとボール」は古代エジプトの壁画にも描かれていることから、4500年以上前から存在していると思われる。
魔術と奇術は、ある意味では非常に近しい関係にある。英語のmagicがその両方を指すように、そもそも奇術は魔術を実現するために発展してきたとも考えられる。また、中世ヨーロッパにおいて、「悪魔と契約を結んで本当に邪な力を得たのではないか」との嫌疑をかけられた奇術師たちが、タネ明かしの本を書いて公開したことが、世間一般に手品を身近なものにしたとの指摘もある。
日本における奇術の歴史は、奈良時代に唐より仏教とともに伝来した「散楽」が始まりとされている。江戸時代頃から手妻(てづま)を見せるということが行われていたようであるが、現在の日本で見られる奇術のほとんどは欧米で発達したものである。そのため日本古来の手妻(てづま)を指す場合に特に和妻(わづま)という呼び方がされることもある。
奇術の分類
観客との距離による分類
;クロースアップマジック- テーブルを間にして1~5人程度の小人数の観客と向かい合って演じる奇術。テーブルマジックとも言われる。いわゆる「手品」と呼ばれるのは主にこのタイプである。道具はトランプやコイン、煙草などが使用されることが多い。観客の目の前で行われることによって、誤魔化しようのない不思議さが演出される。また観客の選んだトランプを当てるなど、観客が参加する楽しみもある。
- アマチュアの手品師の活躍しやすい場でもあるが、プロの手品師によるクロースアップマジックこそ、奇術の中でもっとも不思議な気持ちを味わえるものとも言われている。
- クロースアップマジックとステージマジックの中間的な奇術。出現系の派手な演出を比較的近距離から楽しめる。また、観客の参加度も高い。
道具による分類
トランプ コイン ハト 煙草 シルク(ハンカチ、バンダナ、スカーフなど) 帽子(シルクハットなど) ステッキ ボール カップ 大小の箱(ボックス) など
現象による分類
;移動- カップの中のボールが別のカップに移るなど、ある場所にあった品物や人物が別の場所に移動すること。クローズアップマジックなどで観客の眼前で行なうと効果的。
- コインなどある場所にあった品物が消えてしまうこと。ジェット機や象など隠すことが簡単そうでない品物の場合驚きも大きい。
- なかったはずのものが現れること。ジェット機や象など隠し持っておくことが簡単そうでない品物の場合驚きも大きい。
- ライオンが美女に代わるなど、ある品物や人物が意外な別のものに変わること。変身にかかる時間が短いほど効果的。
- 破いた紙や紙幣を元通りに戻すこと。
- コインにタバコを通すなど、本来通り抜けないはずの物同士を通り抜けさせること。チャイナリングなどが有名。
- 読心術ともいう。観客の選んだ言葉やカードを当てること。
技術による分類
;スライハンドマジック- 仕掛けに頼らず磨き上げられた高度な技術によって不思議さを演出する奇術はスライハンドマジックと呼ばれる。
- 会話を主体とするマジックはパターと呼ばれる。
手品のタネ
かつては手品のタネは、師匠から弟子へと伝えられる重要な秘密であったという。現在では、手品の本や手品の道具を買うことによって誰でもタネを知ることができる。しかしながら手品は娯楽であり、奇術師が作り出す幻想の不思議さを楽しむものであり、トリックを見破ることが目的ではないことを忘れてはならない。また多くの手品は物理的なタネの上に、長時間の訓練があって成り立っているのである。タネあかしは奇術の世界では現在でも重大なタブーと見なされる。
技法
;パーム- 手のひらに品物を隠し持つこと。
- 偽者の親指をかぶせてその中にハンカチなどを隠すこと。
- トランプの順番を入れ替えたと錯覚させること。
- 観客の中に助手を混ぜておくこと。
- 観客に自由な選択をしたと錯覚させ、実際には奇術師があらかじめ決めた選択をさせること。
- トランプを扇形に広げること。トリックではないが見た目の華やかさで奇術としての雰囲気を作り出す。
生で奇術を見られる場所
奇術はテレビでみるよりも生で見たほうが一層その不思議さを味わえる。しかし現在の日本では、うまい手品を生で見る機会はあまりないのが現実である。うまい手品を見たことのない人が、タネだけ買ってもうまい手品を演じることは難しい。 ステージマジックは単独でショーが催される。またサーカスの一部として演じられるので、最も見る機会が多い。 サロンマジックは、デパートの手品売り場で実演販売をみるのが最も手軽にみられる場である。 クロースアップマジックは、手品部のある大学の大学祭などで見るのが手軽で、ある程度のレベルが期待できる。もちろん、プロが行うクロースアップマジックを運良く近くで見られる機会があれば、それが望ましいのは言うまでもない。 アマチュアの奇術愛好グループが定期的に催す発表会で見ることができる。
プロの奇術師が行なうショーはホテルなどのイベントして催されることも多い。社団法人日本奇術協会が1990年よりアマチュアとプロを対象としたコンテストを毎年行なっているので、それに参加すると見ることができる。
著名な奇術師
ロベール・ウーダン ハリー・フーディーニ(脱出王) レナルド・キオ デビッド・カッパーフィールド ジークフリード&ロイ ダイ・バーノン
松旭斎天勝 (しょうきょくさい てんかつ) 平岩白風 (天覧奇術師) 引田天功 引田天功 (二代目)=プリンセス・テンコー ゼンジー北京 伊藤一葉 マギー司郎 マギー審司 ナポレオンズ Mr.マリック トランプマン
奇術と推理小説
奇術と推理小説は一見相性が良いように思えるが、実は正反対の方向性を持っている。つまり奇術のタネを明かすことはタブーであるが、推理小説はタネおよびそれを明かすまでのプロセスを楽しむものだからである。しかし少数ながら奇術と密接に関係した推理小説も執筆されている。奇術師が探偵である場合のほかに、被害者が奇術師である場合や犯人が奇術師である場合もある。また泡坂妻夫のように作家が奇術師の場合もある。 奇術探偵・曽我佳城シリーズ(泡坂妻夫) 11枚のとらんぷ(泡坂妻夫) 奇術師探偵 グレート・マーリニ (The Great Merlini) シリーズ(クレイトン・ロースン) 長編 帽子から飛び出した死 天井の足跡 首のない女 棺のない死体(ゆうれい殺人事件) 短編 入れ墨男の手懸り(いれずみ男の謎) 折れた脚の手懸り ありそうでない動機の謎(動機なき殺人) この世の外から(あの世から) 天外消失 マーリニと嘘発見器 消えたダイヤモンド 音響効果殺人事件 世に不可能事なし 奇蹟なんぞはいつでも起る マーリニと写真の謎 世界最小の密室 魔術師シフティシリーズ(ウィリアム・マーレイ) 走りすぎた馬 スプリンターを狙え ロンドンの超能力男(ダニエル・スタシャワー):シャーロック・ホームズのパスティーシュ 魔術(87分署シリーズ、エド・マクベイン) 彩紋家殺人事件(JDCシリーズ:清涼院流水) 幻惑の死と使途(森博嗣) 刑事コロンボ『魔術師の幻想』 新・刑事コロンボ『汚れた超能力』
外部リンク
関東大学奇術連盟 関西学生奇術連盟 社団法人日本奇術協会