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国際私法

国際私法(独:internationales Privatrecht, IPR、仏:droit international privé、英:private international law)は、準拠法を決定する法規範の総体をいう。法の抵触を解決する法であるため、抵触法(Kollisionsrecht)ともいう。英米法では、普通「法の抵触(conflict of laws)」と呼ばれる。フランスでは、日本で普通「国際法(international law)」と呼ぶものを「国際公法(droit international public)」と呼ぶことに対応し、通常「国際私法(droit international privé)」と呼ばれる。これは、フランスで国際私法を長年国際法の一種であるとみなしてきたことと関係がある。しかし、国際私法の主たる法源 が国内法であることは厳然たる事実である。とはいえ、国際法により国際私法の統一が図られてきていることもまた事実である。今日のような国際化社会においても堪えうる国際私法の基盤を築いた功績者はドイツローマ法学者フリードリヒ・カール・フォン・サヴィニーであり、それは150年以上も前のこと(1849年)であるから、その慧眼には驚嘆するほかない。

概念

序説

「国際私法」という概念が初めて用いられたのは、著名な『法の抵触註解(Commentaries on the Conflict of Laws)』(1834年)において、ジョセフ・ストーリ(Joseph Story)によってであるといわれる。国際私法とは、「事案が国際的なものである場合にいかなる私法を適用するか」に関する法であって、ある程度名称が実体を反映しているため、この概念は広く流布している。しかし、この概念には、「国際法の一種である」というイメージがつきまとい、事情を知らない人間にとっては、「国際私法の主たる法源は実は国内法である」という事実はまったく想像がつかない。このため、「国際私法」という名称は適切ではなく、「抵触法(Kollisionsrecht)」という概念の使用が薦められることも少なくない。しかしながら、厳密には抵触法なる概念は、文字通り「法の抵触を解決する法」であり、国際私法よりも広いものを指すと考えられる。以下、敷衍しよう。

実質法と抵触法

抵触法的観点から世の中の法ないし法規範を分類すると、実質法(Sachrecht)と抵触法(Kolllisionsrecht、法適用法(Rechtsanwendungsrecht)ともいう)、ないし、実質規範(Sachnormen)と抵触規範 (Kollisionsnormen)に分類される。 • 実質規範というのは、事実を要件とし、権利義務を効果とするような規範であり、普通「規範」といわれてまずはじめに想像するような規範である。例えば、「故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス」(日本民法709条)という規範は、「故意又ハ過失」「他人ノ権利ヲ侵害」「損害」「因果関係(之ニ因リテ生シタル)」という事実が発生した場合に当該損害を賠償する義務が生じる(「損害ヲ賠償スル責ニ任ス」)という規範である。 • これに対し、抵触規範とは、単位法律関係(連結の対象、Anknüpfungsgegenstand)と連結素(連結のモメント、 Anknüpfungsmoment)を要件とし、準拠法(法の指定、Rechtsverweisung)を効果とする規範である(具体例は、以下の論述を参照)。このような抵触規範観は、後で詳述するように、当然のことではなく、歴史上割合に新しい事柄に属する。具体的には、サヴィニー以後広く浸透した抵触規範観である。

実質法と抵触法は、実質法の適用範囲が何らかのメルクマールによって区分されていることによって、その区分を横断するような生活関係 (Lebensverhältnisse)に適用すべき実質法の抵触が生じるために、抵触法が必要となる、という関係にある。このため、実質法において 統一法が達成された場合には、当該生活関係に適用すべき実質法の抵触が生じなくなるため、抵触法は不要になるということになる。イメージ的には、実質法と抵触法は、反比例のような関係にある。 • 日本は、明治維新後については、はじめから統一私法(民法商法など)が導入されたので、国内での法の抵触が起こらなかった。 • ドイツ帝国(Deutsches Reich)においては、1889年末日に至るまで、ラント(Land)によって民法が異なっており、ラントを横断するような生活関係については、抵触規範が必要であった。1900年元日からドイツ民法典(Bürgerliches Gesetzbuch, BGB)がドイツ帝国の統一民法典として施行されると、ラント法間の抵触規範は不要となった。 • スイスにおいてもやはりカントン間の法の抵触(interkantonale Rechtskollision)があったため、「カントン際私法(interkantonales Privatrecht)」が必要であった。1907年にスイス民法典(Zivilgesetzbuch, ZGB)が施行されて民法が統一されると、カントン際私法はほぼ不要となった。 • スペインにおいては、現在においても、地方ごとに異なる私法が適用されている(これを「derecho foral(特権法、地方特別法)」という)。このため、国内の事案についても抵触規範が必要である。 • アメリカ合衆国においては、現在でも州ごとに私法が異なるため、依然として州の間の「法の抵触(conflict of laws)」(州際私法)は重要な役割を果たしている。 • 連合王国においても、イングランド法・スコットランド法・北アイルランド法・チャンネル諸島法が異なるため、抵触規範が必要である。 • オーストラリアカナダにおいても、州(Province)ごとに私法が異なるため、州際私法(interprovinziales Privatrecht)が必要である。

空間的抵触法・人的抵触法(人際法)・時間的抵触法(時際法)

実質法の適用範囲がいかなるメルクマールによって区分されているかによって、必要とされる抵触法は、次の三者に分けることができる。 • 空間的抵触法(räumliches Kollisionsrecht) • 人的抵触法(personales Kollisionsrecht) • 時間的抵触法(zeitliches Kollisionsrecht)

空間的抵触法は、実質法の適用範囲が空間によって劃されている場合に、その抵触を解決する法である。今日の国民国家体制の国際法秩序を前提とすれば、領土高権は自国の領土に限られるから、国家制定法の適用範囲は領域によって劃される。この場合に必要とされる抵触法は空間的抵触法である。また、前述した、主権国家内部の地域ごとに異なる法についても、その適用範囲はその地域の領域によって劃されるのであるから、この場合に必要とされる抵触法は空間的抵触法である。

人的抵触法は、人際法(interpersonales Recht)ともいい、実質法の適用範囲が人的集団により劃されている場合に、その抵触を解決する法である。 • イスラーム諸国、インドイスラエルにおいては、ある人の属している宗教により、その人に適用される私法が異なる。その抵触を解決する法は人際法である。宗教際法とも • アフリカ諸国(ナイジェリア南アフリカなど)においては、ある人の属している部族により、その人に適用される私法が異なる。その抵触を解決する法も人際法である。

時間的抵触法は、時際法(intertemporales Recht)ともいい、実質法又は抵触法の適用範囲が時間によって劃されている場合に、その抵触を解決する法である。実質法に対してのみならず、抵触法に対しても、時際法を観念することができるので、注意を要する。典型的には、いわゆる経過規定が法源となる。

抵触法と国際私法

一般的に、国際私法は空間的抵触法の一種であると考えられている。国家制定法の適用範囲は、第一には領域によって劃されるのであるから、さしあたり妥当な分類であると考えられる。しかしながら、国際私法は、国籍によって異なる法が適用されることを前提としており(これは国家の対人高権の一つの帰結であると考えられる)、その抵触を解決する規範を用意しているのであるから、人際法の要素がまったくないわけではない。

抵触法と国際民事手続法

なお、国際民事手続法(internationales Zivilverfahrensrecht, IZVR)については、事案が国際的である場合に何らかの手続法上の抵触が起こり、それを解決するのであるから、抵触法の一分野に含める見解もある。確かに、当事者能力の抵触を解決する規範などは抵触規範であるが、送達に関する規範のように、実質規範も数多く存在する。全体として抵触法に含めてよいかは、微妙な問題である。

歴史

法源




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