情報・メディア・コミュニケーション研究
情報・メディア・コミュニケーション研究という学問は現時点では確立されたひとつの学問としては存在しない。情報学、メディア研究、コミュニケーション学といった名称は学部、学術誌、学術会議などでしばしば用いられるが、こと日本においては、それらは研究者、対象領域、手法、基礎知識などの面において互いに重複する部分が多い。情報学(英語ではインフォマティックス)という名称はヨーロッパ以外では比較的最近になって普及し始めた学問だが、メディアやコミュニケーションの研究は、報道研究、マスメディア/マスコミ研究、スピーチ研究などの名称の下に存在して来た。
その研究領域は情報処理、情報伝達、コミュニケーション行為などの社会的側面や人間との関わり、といった形で大まかに括ることができる。
これら諸学問の源流として、次のような研究が挙げられる。 アリストテレスなど、古代ギリシャにおける修辞学(レトリック)や演説についての研究 社会における知識やイデオロギーの役割を考察したマルクスやマンハイム 新聞などのメディアがもたらす社会変革を考察したアメリカ2020世紀初頭の進歩派思想家 第二次大戦中のプロパガンダ研究や情報理論の発達
また、応用的側面ではこれらの諸学問は、以下に挙げるように、職業的技法習得から芸術的制作活動まで広範囲の実践と結びついた分野である。 演説の原稿執筆 報道 テレビやラジオの番組や広告制作 映画制作 家族や学校、職場など人間関係をめぐる各種カウンセリング 政策分析や法律の論議 演劇 ウェブサイトやウェブ用のコンテンツ開発 マルチメディア作品の制作
こうした事情から、学部のカリキュラム、研究者に期待される基礎知識、実践と研究の関わり方、研究手法、基本概念の定義などの諸面において、かなりの重複が認められるものの、同時に多様性が見られ、どのような研究、教育のあり方が正統的、主流派であるかについて合意が形成されていないのがこの分野の特徴だと言える。
また、近年の動向として、関連諸分野との密な相互作用が挙げられる。これは既存学問分野との相互作用、新興分野との相互作用、の2種類がある。すなわち: 経済学、社会学、地理学など、既存の諸学問における、情報、メディア、コミュニケーションを重視した研究の活発化。 文化研究(カルチュラル・スタディーズ)、記号論、メディア・エコロジー、計算機科学、認知科学、科学、技術と社会研究(STS)、イノベーション・マネジメント、図書館情報学など関連の深い分野の出現。
多様性について
比較的体系化と専門分化が進んだ学問分野においては、専門分化ゆえの多様性が見られることが多い。社会学や経済学はその好例であろう。だが、どのような基礎教育カリキュラムが主流であるか、その学問分野の歴史に影響を与えた主要な研究者は誰か、主要な著作はどれか、などについての合意は、情報・メディア・コミュニケーション研究を行う諸学の場合ほど、困難ではないだろう。
また、宗教学、公共政策、環境問題研究、都市研究など、学際的な研究分野において学問体系が確立しないことや他の諸学との交流が活発に行われることは、それほど珍しいとは言えない。法律、経済分析技法、統計や数理モデル、対象に関する詳細な知識、歴史的事例や海外の事例についての詳細な知識、社会学や政治学などにおけるキー概念や理論的論争についての知識、など、様々な専門性を持つ様々な研究者が互いの研究を参照しつつ分野が展開することは、理由のないことではないだろう。情報・メディア・コミュニケーション研究についても、学問として体系化は不可能か不必要で、学際的な交流の場のようなものとしてあるべきだ考える研究者も少なくない。
主な研究機関
日本: 東京大学 情報学環・学際情報学府 慶應義塾大学 メディア・コミュニケーション研究所 北海道大学 大学院国際広報メディア研究科 同志社大学 メディア・コミュニケーション研究センター 国際大学 グローバル・コミュニケーション・センター (GLOCOM)
海外: ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス メディア・コミュニケーション学部 オックスフォード大学 インターネット研究院 (イギリス) コロンビア大学 ハーバード大学 ケネディ・スクール
主な学会
日本 日本社会情報学会 (JSIS) 日本社会情報学会 (JASI) 日本マス・コミュニケーション学会 日本コミュニケーション学会 情報文化学会 情報通信学会 情報処理学会 日本図書館情報学会 ヒューマンインタフェース学会
海外 ACM - Association for Computing Machinery AoIR - Association for Internet Researchers IACMR - International Association for Communication and Media Research ICA - International Communications Association ISCA - International Speech Communication Assocation INET - The Internet Society
主な学術誌
The Information Society Journal of Communication Media, Culture & Society Theory, Culture & Society Critical Theory
主な研究領域、研究アプローチ
言語、レトリック及びスピーチ・コミュニケーション ノンバーバル・ランゲージ テクスト論、ディスコース ジェンダー、セクシュアリティ、エスニシティ 国民国家 家族 メディア・エコロジー 記号論 サイバネティクスおよびシステム理論 情報処理過程とメディアの影響 政治経済学、批判理論によるメディア産業批判 言論の自由 通信政策 知的財産権 メディア、民主主義、言論、公共圏 近代と脱近代 消費と社会、資本主義と象徴/記号 脱工業社会、情報産業 情報都市 都市情報化 先端技術産業の地理学 科学的知識の社会学 技術の形成過程についてのアクター・ネットワーク・セオリー及び社会的構築理論 インターネット (インターネットコミュニティ) 非生命体進化論 メディア・プラクティス コミュニティ・デザイン
主な関連領域
上述のように、人文・社会科学の様々な領域で、情報、メディア、コミュニケーションに注目した研究が出現したが、その代表的なものとして、次のようなものが挙げられる。
経済学: 市場メカニズムにおいて情報が果たす役割の研究 産業構造の変動、とりわけ、情報、知識、サービス、先端技術産業へのシフトの研究 ポスト・フォーディズムやネオ・フォーディズムの理論との関係で経済や労働の変質と情報技術の関係を考えるもの。 ネットワーク産業における企業行動、競争、規制の研究
社会学: ハーバーマスのコミュニケーション行為の理論の普及、公共圏の概念の普及 ポストモダニティの研究 ブルデューなどによる、社会的行為の象徴的次元の研究 ヴァーチャルコミュニティーなど、コンピューターネットワーク上での人々の振る舞いの研究 科学的知識や技術の形成過程への社会学的アプローチ、とりわけアクター・ネットワーク・セオリーや技術の社会的構築理論に基づく研究 都市社会学にけるロサンゼルス学派
地理学: シリコンバレーなどをモデルとした、先端技術産業集中立地による地域経済開発研究 都市情報化、地域情報化の研究 情報技術やグローバリゼーションが大都市にもたらす分散化や集中化の研究
文学: 記号、テキスト、ディスコースに関する諸研究
哲学: ポスト構造主義など、他者やコミュニケーションについての思想
主な理論、キー概念
主な関連著作
著名な研究者及び関連分野の主要研究者 (五十音順)
日本
浅田彰 - 池田謙一 - 伊藤俊治 - 稲増龍夫 - 梅棹忠夫 - 大石裕 – 大澤真幸 - 鬼木甫
川浦康至 - 柄谷行人 - 公文俊平 - 児島和人 - 粉川哲夫
菅谷実 - 須藤修
竹内郁郎
西垣通
橋元良明 – 林紘一郎
増田祐司 - 増田米二 - 松岡正剛 - 丸山圭男 - 水越伸 - 見田宗介
田村明
日本以外
テオドール・アドルノ - ジョン・アーリ - アリストテレス - ハロルド・イニス - ルードヴィッヒ・ヴィドゲンシュタイン - レイモンド・ウィリアムス - ポール・ヴィリリオ - ソーンスタイン・ヴェブレン - ジョン・オースティン - ウォルター・オング
マニュエル・カステル - キケロ - アンソニー・ギデンス - フリードリッヒ・キットラー - アーヴィング・ゴフマン
ジョン・サール - マックス・シェーラー - クロード・シャノン - マーク・ジョンソン
シェリー・ターケル - ドナルド・デイヴィッドソン - ジャック・デリダ
エライ・ノーアム
ジグムント・バウマン - ピーター・バーガー - ケネス・バーク - ユルゲン・ハーバーマス - ロラン・バルト - クロード・フィッシャー - マイク・フェザーストーン - ミッシェル・フーコー - マックス・ブラック - ピエール・ブルデュー - プラトン - ダニエル・ブーアスティン - エーリッヒ・フロム - グレゴリー・ベイトソン - ダニエル・ベル - ワルター・ベンヤミン - マーク・ポスター - ジャン・ボードリヤール - エドワード・ホール - スチュアート・ホール - マーク・ポラト
ジョン・マカラップ - マーシャル・マクルーハン - カール・マンハイム
ポール・ラザースフェルト - スコット・ラッシュ - フランソワ・リオタール - デイヴィッド・リースマン - ジョージ・レイコフ – ローレンス・レッシグ - エヴェリット・ロジャース