群論
群論(ぐんろん)は代数学の一分野。様々な手法を用いて群について研究する。群はそれ自体興味深い考察対象であるのみならず、数学や物理学の議論をするための基本的な道具として広く使われる。この記事では、群、アーベル群(可換群)、群の位数、有限群、部分群、正規部分群、剰余群(商群)、群の凖同型・同型について順次説明している。
群とは
群(ぐん)とは、「この範囲では自由に掛けたり割ったりの計算ができる」という範囲(集合)を表す抽象的な概念である。数学的に厳密な定義は#群の定義を参照。例えば、(0 を除く)有理数は、どの 2 つの数をとってきてもその 2 つの積や商を考えることができ、また積や商は有理数の内に収まっている。従って(0 を除く)有理数の全体は普通の意味での数の掛け算について群になっている。しかし、有理数ではなく整数に限ってみるとそうではない。実際、1 を 2 で割ろうとすると整数の範囲では割り切れずに有理数 1/2 になってしまう。従って(0 を除く)整数の全体は普通の数の掛け算について群ではない。
数以外の物の集まりについても何か適切な形で積を定義してやることができれば群となる。
有理数のような具体的な対象物から離れて抽象的に「掛け算のできる集合」を扱うことにより、演算が生み出す構造について純粋に議論することが容易になる。また、数の掛け算というようなイメージにとらわれることなく様々なところに群とみなせる構造を見出すことができ、応用を考えることも容易になる。
抽象的な群の概念を考えることの効用としてムルンギン族の婚姻体系への適用が挙げられる。オーストラリア・アボリジニのムルンギン族は、独特の婚姻体系を持っており、結婚しても良い間柄、許されない間柄を定める規則が西洋や日本のものとは全く異なっていた。この体系は厳密だがとても複雑なものであったので、発見したクロード・レヴィ=ストロースにとっても把握は困難に思われた。1945年レヴィ=ストロースからこの話を聞いたアンドレ・ヴェイユは、許される婚姻の型を決定する規則が群をなしていることなどを発見し、群論を活用して体系を解明した。
群の定義
通常の定義
積(二項演算、二項算法) a × b が定義された空でない集合 G が以下の 3 つの条件を満たすならば、G は群である; 積 × に関する結合法則が成立する; (a × b)× c = a ×(b × c) (for all a, b, c ∈ G)。 単位元 e が存在する; a × e = e × a = a (for all a ∈ G) G の任意の元 a に対しその逆元 a-1 が存在する; a × a-1 = a-1 × a = e。
任意の積 a × b は G の中に存在する; a × b ∈ G (for all a, b ∈ G)。 を定義に入れることは上記の方法では必要ない;なぜならば、二項演算が定義されているという部分に含まれているからである。
さらに見かけの条件を減らすこともできる。2, 3 の条件を弱めて
- a = e × a(左単位元の存在) a-1 × a = e(左逆元の存在)
演算の記号 × は普通省略されて a × b は単に ab と書かれる。
恒等式による定義
空でない集合 G に二項算法 a×b と単項算法 a -1 が定義され、これらが次の三条件をみたすとき、 G は群である。 自由群について説明する際には、こういう定義に従う方がよい場合がある。 (a×b)×c = a×(b×c) (for all a, b, c ∈ G) (a -1×a)×b = b (for all a, b ∈ G) a -1×a = b -1×b (for all a, b ∈ G)
いろいろな群
群が任意の元 a, b に対して- a × b = b × a
群の基本的な概念
位数
群 G の元の数(基数)のことを位数という。位数は集合に倣って |G| という記号で表される。位数が有限な群を有限群という。上の例では、最後の対称群の位数が n! となることを除いて、すべて位数は無限になる。
部分群
群 G の部分集合 H が G の群演算に関して閉じていて、H のどの元にも逆元が H の中に存在するとき、この部分集合 H を G の部分群という;これは H の任意の元 a, b に対して ab-1 ∈ H が成り立つことと同値である。G が群であれば、G および e(単位元のみからなる群、単位群)は必ず G の部分群になる。これらを自明な部分群という。それ以外の部分群は、自明でない部分群あるいは真の部分群と呼ぶ。(真の部分群に単位群を含める場合もある。)
部分群 N が群 G の任意の元 g に対して gNg-1 = N を満たすとき、N を正規部分群という。
アーベル群 G の任意の部分群は正規部分群である。また、群 G が自明でない正規部分群を持たないとき、G は単純群であるという。
剰余類・剰余群
部分群 H と G の元 g について、gH はある G の部分集合になる。二つの g, g' について gH, g'H は全く一致するか交わらないかのいずれかである。従って、N を正規部分群とするとき gN = Ng が成り立つ。すると、二つの剰余類 gN, hN について gN · hN = ghNN = ghN が成り立ち、剰余類の間に演算を定義することができる。ここからすぐにこの剰余類全体は群をなすことが分かる。この群を G の N による剰余群(または商群)といい、G/N と表す。
群の準同型・同型
群 G1 から群 G2 への写像 f が任意の G1 の元 g, g' について f(gg' ) = f(g)f(g' ) を満たすとき、f を準同型(写像)という。(G1 = G2のときは特に自己準同型という。)さらに準同型 f が全単射であれば、f を同型(写像)という。G1 から G2 への同型が存在するとき、G1 と G2 は同型であるといい、群 G の自己同型(G から G への同型写像)全体の成す集合を Aut(G) と表すと、 Aut(G) は写像の合成を積として群となる。Aut(G) を G の自己同型群と呼ぶ。
準同型の核 Ker f は G1 の正規部分群になっていて、
群 G の任意の元 g に対し、写像 Lg: G → G, Rg: G → G, Ag: G → G を
- Lg(x) = gx
- Rg(x) = xg-1
- Ag(x) = gxg-1
群 G の二つの元 x, y に対し、y = Ag(x) = gxg-1 となる g ∈ G が存在するとき、x と y は互いに共役であるという。同様に、部分群 H, K に対し、H = gKg-1 となる g ∈ G が存在するなら、二つの部分群 H, K は互いに共役であるという。
群 G の部分群 N が正規部分群であることと、N が G の任意の内部自己同型で不変であることは同値である。さらに N が Aut(G) の作用で不変なら N は G の特性部分群であるという。
可解群・交換子群
群 G が、 G の正規部分群の有限列 H1, H2, ..., Hr で 2 条件- G = H0 ⊃ H1 ⊃ H2 ⊃ … ⊃ Hr ⊃ Hr+1 = e、
- Hi/Hi+1 (0 ≤ i ≤ r) は全てアーベル群
代数方程式が代数的に可解となることと、その方程式のガロア群が可解群となることは同値である。このことが可解群の名の由来である。
また、可解群の定義は次のように述べることもできる(両者の定義は同値):
G の部分群 D(G) を
- D(G) = <xyx-1y-1 | x, y ∈ G>
一般に、xyx-1y-1 を x と y の交換子と呼び、[x, y] であらわす。さらに G の部分群 H, K に対し、[h, k] (h ∈ H, k ∈ K) の形の元で生成される G の部分群を [H, K] で表し、H と K の交換子群という。
この記号を用いれば、D(G) = [G, G] であり、これを G の交換子群と呼ぶ。D(G) は G の特性部分群、したがって特に正規部分群である。すぐに分かるように、D(G) = e は G がアーベル群となることに同値である。したがって、剰余群 G/H がアーベル群となるなら H ⊇ D(G) であり、自然に G/H ⊆ G/D(G) と見なせるので、G/D(G) は G の剰余アーベル群の中で最大のものになる。よって G/D(G) を G の最大剰余アーベル群と呼ぶ。
スタブです。
群論の生い立ち
4 次方程式までは代数的な、すなわちべき根による解の公式が存在するがことがわかっていたが(カルダーノ、フェラーリ)、5 次以上の方程式に解の公式が存在するのかどうかはわかっていなかった。群論は、この問いに対しての解を追求する過程において、エヴァリスト・ガロアによって導入された考え方である。ガロアは群論を利用して、5 次以上の方程式には解の公式が存在しないことを証明した(ガロアの理論)。ただしこの業績そのものはルフィニまたはアーベルに帰せられる。ガロアの業績は、与えられた方程式が代数的に解くことができる条件を、可解群の概念を用いて定式化したことにある。
群の種類
リー群(連続群) ローレンツ群 空間群 結晶点群 磁気空間群(シュブニコフ群) 磁気点群 灰色群
関連項目
数学 代数学 物性物理 第一原理バンド計算 ガロア アーベル 佐竹一朗