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膠原病学

米国人にとっての理想の医師像であるサー・ウィリアム・オスラーは、「SLEこそ内科の真髄である」と言ったという。そのSLEこそは、もっとも典型的な膠原病である。 膠原病学(こうげんびょうがく)とは、「膠原病」と呼ばれる疾患群を研究する学問である。

言葉の定義について

「リウマチ」という言葉は、ヨーロッパで古来より関節をおかす疾患を総称していたもののようであるが、現在はリウマチ熱と関節リウマチの二つのまったく異なった疾患の名前に残っている。この二つの疾患は完全に異なる疾患であるが、共通点は頻度が高いことにある。すなわち、この二つの疾患は古くから多くの人の知るところであったため、古来からの名前「リウマチ」が残っているものと考えられる。いっぽう最近では、全身性ループスエリテマトーデスを含むリウマチ学Rheumatologyが扱う疾患は「関節をおかす疾患」というよりは、「免疫の関与により全身の臓器をおかす疾患」である。関節という概念がメインに出やすいリウマチ学という名称は誤りの元とも考えられる。

現在ではこれらの疾患を総称して「リウマチ」ということはなく、「膠原病collagen diseases」「結合組織病connective tissue diseases, CTD」「自己免疫疾患autoimmune disorders」などのいずれかを用いる。日本では「膠原病」という呼び名が最も定着している。いっぽう、それらの疾患を扱う学問そのものの呼び名としては、「リウマチ学」もしくは「膠原病学」が使用されるようだ。

日本では、明治以降西洋医学を詰め込み式に輸入したため、「リウマチ」という名称にしばられる必要がなかった。したがって欧米のようにリウマチ学という呼び方ではなく、膠原病学だとか膠原病科という言い方をすることがあるのであろう。原理的にはこちらのほうが正しい呼び方と考えられるが、国際的に通用する呼び名ではない。やはり海外ではリウマチ学という呼び方が圧倒的に多い。

歴史

膠原病の証拠を残す最古のものが、アメリカ・テネシー川近くで発掘された紀元前4500年ころのインディアンの人骨に残されている。このインディアンは、関節リウマチにかかっていたと考えられている。

紀元前500年ころすでにヤナギの木の皮から得られる成分、「サリチン」が発見され痛み止めとして使用されていたらしい。このサリチンはのちに19世紀後半に、化学者によりアセチルサリチル酸(アスピリン)に合成され、1世紀以上にわたって鎮痛薬の主役を務めることになる。

紀元前400年ころ、ヒポクラテスの文献には関節疾患の記載がある。紀元前50年ころに活躍したユリウス・カエサルは関節炎にかかっていたと考えられている。

リウマチの語源であるロイマrheumaは少なくとも西暦100年ころには使用されていたという。ロイマは「流れ」という意味であって、このころの人々は脳から体液が下のほうに流れ、うっ滞すると腫脹や発赤をきたすと考えていた。一方インドでは、このころすでに関節リウマチの臨床所見を正確に記載した文献が出ている。

暗黒時代に、ヨーロッパにおけるリウマチ学の発展はない。アラブ、インドや中国においてどうであったかは定かでない。

ルネッサンスを迎えると、Guillaume Baillou (1558-1616)は初めてリウマチが全身の筋・骨格の症候であると述べた。痛風は古来他の関節炎とわけて語られることはなかったが、トーマス・シデナムThomas Sydenhamがはじめて痛風とリウマチ熱とをわけて記載した。さらには慢性化するリウマチ熱があると述べており、これは現在の関節リウマチに相当すると考えられている。15世紀後半ころには、キナの皮から得られるキニーネがリウマチの治療に用いられ始めた(現在の欧米でのヒドロキシクロロキンの使用につながる)。また、16世紀からはヤナギの木の皮からえられるサリチル酸がリウマチの治療に用いられ始めた。

関節リウマチをはじめて明確に記載したのは1800年, サルペトリエール病院のAugustin-Jacob Landre-Beauvaisの論文においてである。リウマチ熱Rheumatic feverの用語を初めて用いたのはDavid Dundasで、1808年のことである。全身性ループスエリテマトーデスによると思われる皮疹を最初に記載したのはFerdinand von Hebraである(1845年)。強皮症の名称は、1847年Elie Gintracによって初めてもちいられた。同じ1847年にはAlfred B. Garrodが痛風患者から尿酸を検出する方法を確立した。また、関節リウマチRheumatoid arthritisという言葉を最初に用いたのもAlfred B. Garrodで、1858年のことである。1862年にはMaurice Raynaudがレイノー現象を報告している。1866年にアドルフ・クスマウルAdolf KussmaulとRudolf Maierは剖検例をおかしていた新たな疾患に対して結節性動脈周囲炎なる疾患名を冠した。1886年にはErnst L. Wagnerが多発性筋炎の用語をはじめて使用した。皮膚筋炎は、1891年にHeinrich Unverrichtが記載している。全身性ループスエリテマトーデスの内臓病変を最初に記載したのはウイリアム・オスラーWilliam Oslerで、このときはexudative erythemaという名称がもちいられていた。進行性全身性強皮症という言葉を最初に使用したのは1945年のRH Goetzであるが、現在では進行性という言葉は適切でないとされ用いられない。Jacob ChrurgとLotte Straussがチャーグ・ストラウス症候群を報告したのは1951年のことである。1964年、Richard H. WinterbauerがCRST(後のCREST)症候群を記載した。

リウマチ専門医Rheumatologistという言葉はBernard Comroeが1940年に考案し、リウマチ学Rheumatologyという言葉は1949年にJoseph L. Hollanderの教科書で初めて用いられた。

特徴

膠原病は、全身疾患であると言われる。すなわち、心臓病は心臓に、腎臓病は腎臓にしか病気が起こらないのに対して、膠原病は体中のありとあらゆる臓器に病変をおこしうる。ただ、その中でも病変がおこりやすい臓器とおこりにくい臓器があり、特に皮膚病変と肺病変は多いのだがその理由はさだかではない。また、単一の膠原病だけでも多臓器病変がおこりやすいにもかかわらず、膠原病どうしも合併しやすい傾向があって、わざわざオーバーラップ症候群という診断名があるほど。 膠原病は原因がわかっておらず、治療法もわかっていない。したがって、膠原病学の最大の目標は、「膠原病の治療法の探索」である。内科学の各分野において、神経内科と肩を並べて満足な治療法が存在しないのが膠原病学である。ただし、神経内科との違いとしては、強皮症をのぞいては「対症療法」的な治療法が存在するということがある。すなわち、ステロイド療法または免疫抑制療法である。これらは膠原病を治癒させることはほとんどないが、病勢をおさせることは大抵できる。

疾患

膠原病学が扱う病気には以下のものがある。 古くから五大膠原病としてしられているのが、関節リウマチ(RA)、全身性ループスエリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(SjS)、多発筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)、全身性強皮症(SSc)である。それらに、「膠原病類縁疾患」と呼ばれるベーチェット病、血管炎症候群(高安大動脈炎、結節性多発動脈炎(cPN)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、ウェジナー肉芽腫症、チャーグ・ストラウス症候群、側頭動脈炎(TA)/リウマチ性多発筋痛症(PMR)、シェーンライン・ヘノッホ紫斑病(HSP)など)、HLA-B27関連関節炎を加えたあたりが守備範囲である。 • 関節リウマチ: 全身の関節に炎症がおこり痛くなる、膠原病の中では圧倒的に頻度の高い病気。病変はご多分に漏れず関節に限局しているわけではなく、皮膚(リウマチ結節)、肺(BOOP)、血管(悪性関節リウマチ)、血液(フェルティ症候群)などなどに病変がおきうる。 • 全身性ループスエリテマトーデス: ありとあらゆる疾患の中でももっとも特殊な疾患のひとつであり、この病気にかかっている患者が次の日にどうなっているか、われわれ医師には予測不可能である。もともとは若い女性の皮膚に難治性の潰瘍病変を発生させ、これが狼にかまれたようにみえることからループスと名づけられたという(ちなみに結核の皮膚病変も同様の様相を呈し、ループスブルガーリスという)。この病気は主に皮膚、腎、血液病変をおかすがその他頭のてっぺんから足の先っぽまでどこにどの病変がおこってもおかしくなく、どの臓器がもっとも強く傷害されるかは人によってまちまちであり、いつからどの臓器がやられはじめるかもまちまちである。また、もっとも典型的な膠原病であるにもかかわらず、膠原病にもっとも典型的な肺病変がないというのもおかしな話。とにかく不思議な病気である。 • シェーグレン症候群: 乾き目・口の乾燥が特徴であり、ドライアイと歯槽膿漏が受診の理由となりやすい。医者の中でもこの疾患は軽い病気だと思っているむきがあるが、れっきとした五大膠原病のひとつなんであって、なかには脳病変、肺病変(LIP)、腎病変(リンパ球性間質性腎炎)、RTAをおこすものもある。また、悪性リンパ腫の頻度が高いことは有名である。 • 皮膚筋炎/多発筋炎: 皮膚筋炎は、ヘリオトロープ疹とゴットロン徴候という特徴的皮膚症状とともに筋の炎症をきたしている疾患である。筋肉が痛くなる。重症者では呼吸筋の筋力が低下し呼吸困難となることがある。多発筋炎は、皮膚筋炎から皮膚症状を抜いたものであるが、別の疾患である可能性が高いという。また、皮膚筋炎は悪性腫瘍との関連がよく言われている。 • 強皮症: その名のとおり皮膚が硬くなっていく疾患であるが、その肺病変、心病変、腎病変をおこしうる重篤な疾患であり、特に五大膠原病の中では唯一ステロイドが無効である。

今後の展望

現在はリコンビナント技術を用いて特定のサイトカインネットワークを遮断する試みがうまくいき、次々と新薬が投入されている。特に目覚しいのが関節リウマチであり、インフリキシマブ、エタネルセプト、アトリズマブなど次々と効果の大きい新薬が使用開始されている。ただし、これら多くの薬剤も病気を完全になくすことはできず(そんなことができる内科疾患自体少ないが)、病気の真の発生機序とその治療法の発見がのぞまれる。

関連項目

医学 • 内科学 • 免疫学リウマチ科



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